今回から2026年度中学入試問題を考察していきます。

初回は慶應義塾中等部。創立者である福澤諭吉の思想が今も息づいている、伝統と歴史ある学校です。

かといって重い伝統と歴史ではなく、自由闊達とした雰囲気を感じます。独立自尊、実学、気品の泉源といった精神はもちろん中等部にも根付いています。自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行う。時代や年代を問わず、心に響く理念です。

そんな慶應義塾中等部の国語は、背伸びをした作文を求めてはいません。

『本文に何が書いてあるか、正確に抜き出せるか』

『基礎となる知識が、正確に備わっているか』

この、一見簡単で、実は奥が深い基礎の力が求められているのです。

実際の試験問題を使って、解法を確認していきます。

大問1 物語文 問3

物語文は第一に登場人物を確認し、冒頭部分での心情を押さえてから読み進めます。

登場人物は後から増えることもあります。大切なのは主人公が誰かを特定することです。中学受験に臨む小学生の方にありがちなのが、目立つ行動をする人物を主人公と錯覚することです。ヒーロー、ヒロインこそが主人公、という子供向け文学作品の影響かもしれません。

見分けるポイントは、心内語が書かれている人物=主人公です。言葉や行動がどんなに詳しく書かれていても、「心の声」が書かれていなければ、その人物は主人公ではありません。

その点、この問題では冒頭から「心の声」が書かれています。名前は後から出てきますが、まず冒頭での主人公の気持ちは「だるい」ですね。

物語文には法則があって、冒頭と終わりでは気持ちが大きく変わります。「だるい」気持ちがどう変わったのか?変わったのはなぜなのだろう?この2点を意識しながら読むと、主語の取り違えが減り、得点力が上がります。

さて、先ず問3を見てみます。『おれは返事をしなかった』という一文の理由を問う問題です。

ここで手が止まってしまうお子様は、一生懸命『おれの気持ち』を想像しようとします。そんなときこそ、目線は問題用紙、文章に戻しましょう。探すのは、返事をしなかった決定的な理由です。

傍線部③の前は、美海の台詞やリレーについてなど、状況説明です。『おれの気持ち』は傍線部③より後ろにあるということです。気持ち=心内語を探してみましょう。

すると『オレ』は小路に対して「近づきたくない」「ずるくないか?」「口をききたくなくなった」と思ったことが分かります。この言葉がそのまま書かれている選択肢はありません。

ここで慌ててはいけません。言い換えが行われているんだ、と気付けることが正解に繋がります。

もし言い換えに気づけないと、「本文の言葉が書いてある選択肢を選ぶ」という引っかけにあい、残念ですが得点はできません。正解以外の4つの選択肢には、本文の言葉や状況が書いてあります。しかし、さきほど確認した『オレ』の気持ちは書かれておらず、言い換えられてもいないのです。

正解の選択肢では「ずるい」という負の感情を、『あまり良い印象を持っていない』という綺麗な言葉に言い換えています。そして「近づきたくない」「口をききたくなくなった」を『積極的にかかわりたくなかった』と言い換えています。

このように ①本文から心内語をさがす ②あてはまる選択肢を探す ③もしなかったら言い換えをさがす  と進めていきます。③ができるかどうか、が正答率の低い問題を正解できるかどうか、慶應義塾中等部のような学校に合格できるかどうかの分岐点だと思ってください。

大問1 物語文 問5

では同じやり方で、問5を解いていきます。

運動会で盛り上がるクラスメイトを横目に、『手拍子だけ』合わせる主人公。この時の心理を問われています。一見、やる気がないだけのようにも見えますが、ここには非常にロジカルで、かつ繊細な心理が隠されています。

慶應義塾中等部はこの『行動の裏にある微細な温度差』を読み解く力を求めています。

解答の鍵は、傍線部の直前にあります。

  • ​ 『声をむだに枯らしたくないから』→理由の接続助詞「から」があるので見つけやすいです。

冒頭で、主人公の気持ちは「だるい」でした。その後、(ハチマキを)「一応つけてますけどやる気はないですよ」から「競技がはじまると、うっかりがんばって走ってしまった」。そして、小路くんへの問3の思いへと続くのですね。

主人公は、声をむだに枯らしたくないと考えています。やる気のなさをアピールするほどです。

​でも、『何もしない』わけではないのがポイントです。うっかりがんばって走ってしまったくらいですから。

『手拍子だけ合わせる』 というのは、勝ってほしい気持ちもゼロではないけれど、自分の声を枯らしてまで必死になりたくないという、主人公=麻井くんのスタンスを表しています。

自分の組を応援したい気持ちはあるが、身を削ってまで必死になることには躊躇している

​まさに、『手拍子(応援の気持ち)』と『声を枯らしたくない(必死さへの躊躇)』という要素を含んでいます。そして、ここでも言い換えが使われています。

次回は物語文の記述を取り上げます。