中学入試において、人気・偏差値とも高いランクを維持する慶應義塾中等部。2025年度入試では、慶應義塾普通部の受験希望者が100名ほど増加した影響か、受験希望者は100人ほど減少しました。とはいえ圧倒的な人気は来年度も変わらないでしょう。
傾向と対策
2025年度の出題を振り返ります。
大問1は物語文で、 約4000字。大問2は説明文ですが、会話スタイルで書かれていました。大問3は四字熟語、大問4は日本語の使い方を問う問題。大問5は漢字書き取り問題でした。
漢字書き取り問題は15問ありましたし、大問3も漢字の知識を問う問題でもありましたので、漢字の知識問題は全体の3割を超えました。漢字の知識と語彙力を重視されていることが分かります。
問題数は47問。試験時間が45分であることを踏まえると、1問当たり57秒で解答しなければならない前提になります。しかし、長文読解の文章はそれほどの長さ、難易度ではありません。加えて記述問題も一問のみですので、選択問題をスピーディーに解答できることを意識した演習と、先に述べた漢字知識を含めた語彙力を高めていくことで合格に近づけるでしょう。
また、例年時事問題が必ず出題されます。出題形式は一定ではありませんので、絞り込んだ対策をすることは時間対効果の面からみてお勧めできません。日ごろからニュース(特に国際関係や環境問題)に触れ、それに沿う語句への知識を養って抵抗感をなくしておくことが必要です。
大問1 物語文【路傍の石】
例年とは傾向が異なり、戦前の文章が出題されました。戸惑った受験生もいらしたかもしれません。ただ、多くのお子様を悩ませる「方言」のない文章でしたので、慣れない語句(明治時代の日常生活に伴うもの)に動揺さえしなければ、読解は難しくはなかったと推測されます。蛇足ですが、この物語には慶應義塾出身の登場人物が存在します。
問一は表現形式を問うものですが、五七五の形式が何であるかは言わずもがなでしょう。数秒で正解したい問題です。
問二。3行後ろに「彼女はなんども針を置いて」とありますので、悩むことなく解答できる問題です。
問三。これは各選択肢を前半後半に分け、正誤を確認しましょう。まず後半から確認しますが、2,4が誤っていることが分かります。前半は5がまず誤りであり(一緒に暮らせるのではなく”やぶ入り”※注釈を見落とさないこと)、1と3で悩む可能性はあります。しかし「奉公先」という語句が含まれる3が正解だとたどり着けます。
選択肢の文章を分割して判断することは、一見時間の無駄遣いに思えて避けたいお子様も多いことでしょう。ですが実際の入試の時は、思わぬ思い違いで失点することも起こります。そうした防げるミスを防ぐためにも、より慎重に確実に、選択問題では「分けて、後半から判断する」という方法をマスターしていただきたいと思います。
問四。これも「分けて、後半から判断する」で解いていきます。が、その前にしなければならない大切なことがあります。どの問題でも、「その問の文章を必ずよく読むこと。」これもまた、思い違いによる失点を防ぐとともに、時にはそれで正解を絞り込むことができます。
この問四では、主人公の母親の心の声として「まだ…、ことしはおひまがでないのかもしれない」と記載されています。この「おひま」が「休暇」を指すことは、「やぶ入り」の注釈を読むことで理解できるかもしれませんし、それが難しくても傍線部のあとの吾一の「わたしのような行きたてのものにはやぶ入りはないって…」からも推測できます。この母親の心の声を「まだ…、ことしは休暇がでないのかもしれない」と読み替えることができたなら、解答が4であることはすぐにわかるでしょう。選択肢の前半部分の主語も、吾一と母親とで選択肢が分かれていますから、判断に迷うことはないと思われます。
問五。語彙力の問題です。その直前の「あきらめて」に対応する擬態語です。
問六。この選択肢には接続詞がなく短いため、分割なしで選びます。短い選択肢は要注意、紛らわしいものが必ず含まれていると思ってください。実はこの設問、「路傍の石」を読んだことがあったり、あらすじを知っているお子様には危険な問題でした。その理由は後述します。
では内容をご存知なくても分かるよう、傍線部前後を読み込みます。まず母親は吾一の言葉を聞いて「痛々しい気持ちがわいて」きて、「こういうしつけは学校では、とても覚えられないことと」と思っています。「痛々しい」という語句の知識が必要ですが、これが分かればまず1,5が違うことが分かります。それから傍線部より4行前の吾一の言葉「きょうは特別に(お休みを)出していただいたんです」から、4も違います。これで2,3に絞れました。痛々しいという語句にはどちらの選択肢も合いますし、「しつけ」「学校」という記述にも合います。しかし、2の選択肢「お金がなくて…」の記述は問題文にはありません。ですから正解は3になります。
ここで、あらすじを知っているお子様には危険な問題であった理由に触れたいと思います。この「路傍の石」は、貧しさゆえに進学を諦めて奉公に出た吾一が主人公です。これを事前知識として持っているお子様は、どうしても選択肢2を選びたくなってしまうでしょう。しかし読書として正解であっても、国語としては正解ではないのです。なぜならば、国語における正解とは、その根拠が問題文の中にあることだからです。根拠があるから正解がある。これは全ての教科に通じることです。そして、この「論理的思考」こそ中学受験を超えて全ての世代に求められる力なのです。なんとなくそう思った、だいだいこのような感じ、そういった曖昧な基準が通用しないのが学問の世界です。そしてこうした論理的思考の世界があるからこそ、詩や物語といった叙情的な世界が生き生きと輝くのです。ぜひこの境界を曖昧にしないことを意識してください。
問七。「うち」が吾一の実家を指すことは明白ですから、1か2しか残りません。そのうえで、母親の年金のことは問題文に出てきませんし、母親が身体の調子が思わしくないのに針仕事をしていることが書かれていますので、家計が楽ではないことが分かるでしょう。
問八。この試験問題のなかで唯一の記述問題です。この問の注意点は「こういうものとはどういうものか」ではなく、「母親にはどのようなものとして映ったか」を問われていることです。ですから先ず「こういうもの」を明らかにし、そのあとに母親がそれをどうとらえたかを解答する必要があるのです。こうした微妙な問い方の違いの見極めは過去問演習で鍛えることができますが、その前に「文章だけでなく、設問を読むことにも注力する」「答えを書くことを急ぎすぎない」という点を普段から意識していただきたいと思います。
まず「こういうもの」は指示語は前の文章を指す、という法則に則って「吾一の力で生み出された小づかいというもの」と仮定します。では母親の捉え方はというと、必ずしも指示語の前ではないわけです。小づかいについては、この直後の段落「おひねりの~」のなかに「おれんの目には」と母親の「思い」が述べられています。
そして設問にある大きなヒントを役立てましょう。「~もの」につながるように、と指示があります。その段落には「~もの」という記述が複数あります。「金銭というものではなかった」「いやしいものではなく」「尊いもの」ここで
国語の長文読解の法則の出番です。「Aではなく、Bである」という形式があった時、大切なのはBですね。ですから「尊いもの」だけが残ります。これでは字数が足りないのですが、同じ段落に「息子が働いて、~お金であると思うと」とありますので、この「お金」の部分を「尊いもの」に置き換えましょう。するとこれで19字になりますが、字数が6~11字足りません。こうしたときに、いきなり自作の文章を入れてはいけません。あくまでも問題文の中にある言葉を使います。「血の結晶のような」(8字)「いやしいものではなく」(10字)などを「尊いもの」の前に入れて字数を調整し、体言である「尊いもの」を修飾します。
問九。「吾一が子供らしくない声を出した」部分を探せばよいのです。そして「吾一ははじめて」子供らしい声をだしたよりも前の部分であることも分かります。「吾一のことば…ませてきた」で20字ですので、はじめの5文字が解答です。
問十。これは分かりやすい問題でした。直後の「吾一に里ごころを起こさせては大変だ」が理由です。「里ごころ」の意味がもし分からなくても「吾一に何かが起こると大変だ」に添う選択肢を選びます。何度も申し上げている通り、問題文に記述のない要素は解答になり得ません。
問十一。設問にヒントがあります。「会話を続けていく…」とありますので、このセリフよりも後ろの部分が重要です。ワップルは確かに吾一にとっておいしいものでしたが、母親のぼたもちは「それより、なん層倍」もおいしかったのです。選択肢は長いかもしれませんが、紛らわしいものはありませんでした。
問十二。これも問十一と同じく、紛らわしい選択肢はありません。吾一は「いやだなあ、お世辞だなんて」と本気になって抗議したのです。しいて言うなら「立腹した」という選択肢の表現に抵抗感を覚えた方もいらっしゃるかもしれませんが、内容に添うものは5しかありません。
難易度は決して高くない
以上、大問1の物語文を見てきました。
難易度として高いというよりは随所に引っ掛かかりやすいポイントがあって、そこをいかに正確な読みで得点していくかということと、時間に制約があるという点が難しいところになってきます。
大問2以降は、次回に続きます。