女子御三家の一つ、雙葉中学校。前の2回では長文読解の選択問題や要約問題、登場人物の心情や理由の説明記述を考えてきました。最後は苦手な方が大多数であろう、自分の体験を記述する問題について考えましょう。
何を問われているのか
記述問題において、もっとも大切なこと。それは、設問の意味を読み取ることです。
今回の設問であれば、「あなたが誰かの言葉によって知らなかったことに気づき、自分の行動や考えを変えた経験を一つ挙げ、それについて書きなさい」です。では、どんな経験でも、自分の行動や考えを変えた経験であればよいでしょうか。
ここが一番のポイント。問題文の主題(テーマ)に沿った経験を記述しなければ、高得点は望めません。
例えば、こんな経験はどうでしょうか。「私は水筒にいつも緑茶を入れていた。しかし担任の先生から麦茶のほうが身体に吸収されやすいといわれ、自分の健康のために翌日から水筒には麦茶を入れて持ち歩くようになった。」
一見、設問の指示通りなのです。担任の先生の言葉によって知らなかったこと(麦茶のほうが身体に吸収されやすい)に気づき、私は行動(いつも水筒に緑茶を入れていた)を変えました。ところが、この解答は大事な点を押さえることができていないのです。もう一度、設問を見てみましょう。
『「改めて私に衝撃を与えた」とありますが、あなたが誰かの言葉によって知らないことに気づき・・・』と続きます。この「改めて私に衝撃を与えた」ようなことが、出題者が書いてほしい経験の内容なのです。この設問文は言い換えると、『「」内の例のような、あなたの実例を書きなさい』ということです。そして「」内はまさにこの問題文の主題です。ですから、この設問によって出題者が知りたいのは次の二つ。
- 問題文の主題が理解できているか
- 自分が言いたいことを、他者に分かりやすく記述できるか
さあ、もうお分かりですね。記述力だけでは、この問題に完全正解できません。自由なテーマの作文や小論文が得意でも、読解力がなければ出題者を納得させられないのです。
主題の理解
それでは問題文の主題を確認しましょう。手掛かりは設問で例とされた傍線部⑥です。問題文の「私」は英語の先生のクリスマスパーティーに招かれ、「You can change」と繰り返し言われた言葉を思い出します。そして傍線部⑥に続き、「私」は変化します。本気で英語を勉強し、紆余曲折ありますがアメリカ留学を果たすまでになります。
それでは、変化前の「私」はどうだったのでしょう。傍線部⑥の3つ前の段落から、過去の「私」の様子が語られています。学習の機会を得られないために、自分は「目が見えないだけで他のこどもと違い社会から疎まれる存在なのだ」とずっと思っていたのです。
それでは、きっかけについてはどうでしょう。これは問題文を通じてよく出てきた先生の言葉でした。先生は繰り返し「私」に対して、”You can change” と仰いました。それは、「見えないことは、あなた次第で才能に変えられる」という思いから出た言葉でした。これを聞いて「私」がどう感じたかは、小問4(2)で解答したとおりです。先生は初めて「私」に会ったときから、自分次第でマイナスはプラスに変えられる、と伝え続けてきたのです。
さあここで、もう一度設問文を読んでください。
「あなたが誰かの言葉によって知らないことに気づき、・・・」
変化前、きっかけ、変化後の「私」を見てきました。きっかけは、ずっと与えられていました。けれど「私」が変化できたのは気づいたからです。自分のマイナス(目が見えないこと)はプラス(音だけで言葉を学んだり、たくさんの事ができる)に変えられる、と。たとえツリーの灯りが見えなくても、電球の熱さに触れて豊かな輝きを感じることができるように。これがこの問題文の主題です。
きっかけは、外側から与えられるものです。それに対して気づきは、自分の内側から生まれてくるものです。人から促されるものでもなく、ましてや強いられるものでもありません。だからこそ、その気づきは行動や考えを変える原動力になるのです。
変化前、きっかけ、気づき、変化後。解答に必要な要素がわかりました。しかも、変化はマイナスをプラスに変えるようなものです。先述した水筒のお茶の解答では、自分を変化させるような気づきはありませんでした。ですから解答として不十分です。かと言って、そんなに大きな気づき経験でなくてもいいのです。大切なことは、解答に4つの要素が含まれていて、それが他者に伝わるように書かれているかどうかです。
自分の解答を冷静に見るために
気づきを得て、変化できた経験が思い出せたら、それを文章にします。難しいのは、こと自分の事となると、少々人に伝わりにくい文章になっていても、読み返すときに自分で補ってしまうーつまり、欠けている部分に気づきにくい点があることです。これを防ぐために、要素がいくつ必要か確認してから下書きしましょう。今回なら4つです。
迷いにくく、時間管理もしやすいのは変化後から書くタイプです。
変化後→「~こうなった」
きっかけ→「~といわれたから」
気づき→「~こう思った(気づいたから)」
変化前→「~だったが」
結論が決まっているので、少々書きたいことが分からなくなっても元のところに戻りやすいです。結論ありきなので、さみだれ式に時間を使うことも防げるでしょう。
このタイプの設問は、ある程度のレベルの中学校入試では頻出です。この問題の出来が国語含めた教科の長文記述問題の得点を左右し、合否に影響するといっても過言ではないでしょう。それゆえにこのタイプの問題を直前対策にせず、定期的・習慣的に記述問題に取り組んでいただきたい。繰り返し取り組むことで抵抗感も薄れるでしょうし、何より自分の解答作成の形が出来上がってきます。先述の解答のタイプですが、変化前から書く方が合う方もいらっしゃいます。人から教えられたものを実践して、自分の得意な形にして自らに落とし込んでいく。これを繰り返すと、自分の力を信じられるようになる。”自信”が生まれてくるわけです。
教育への情熱
3回にわたって雙葉中学校2023年入試問題を考えてきました。特に大問2では、これから同校生徒となるにふさわしいかを問われているように感じました。と言いますのも、ここでいう気づきは、自我の確立と深い関係があると思われるからです。家庭より社会との関りが深まるこの時期に、「自分はどういう人間であるか」という疑問も深まってきます。その試行錯誤の中で、自分自身への「気づき」を重ねて成長していくと思われます。
同校の入学資格を問う入試問題。その中に、どのような「心の成長」の道程にあるのかを問うような問題が
あるということに、雙葉中学校の教育への深い情熱が感じられました。同時に、大人として生徒さんへの接し方について考えさせられる良問でした。