生徒を教えるということ―これはとても重い責任を負うことでもあります。
私は大分県の教育者家系に生まれ、幼い頃親族が集まると大人はほぼ教育者という環境に置かれました。
幼い頃は教師になる事が必然と思っていましたが、次第に教育が生徒や社会に与える影響に興味が湧き、学生時代は第二次世界大戦後のドイツの教育について独自に勉強したりもしました。社会人になってから通信制大学で臨床心理学、特に発達心理学を中心に学び、一個人の精神面・体力面の成長に周囲の関わり方が大きく影響することを肝に命じながら、新卒の方や学生の方への教育に携わる機会に恵まれました。
こうした経緯から、学生時代から現在に至るまで、「教育は人を創る」と考えています。自分が関わった方が、「楽しい」と思って勉強や仕事に向かえるようになっていただきたい。これこそがその方の持てる力を存分に発揮できる状態だと思います。
4つのステップ
さて、読解力を向上させる取り組みを行う上でも、もしかしたら日常生活のあらゆる場面でも、何かを教えるには順序があります。なんの説明もなく、いきなりある事を行うように迫られて、戸惑ったり不安になった経験が大人の方にはあるでしょう。生徒様の年代で思い当たる事があれば、我々大人は猛省しなければなりません。
この教える順序にはいろんな説がありますが、ここではそのうちの1つをご紹介します。
⒈説明する
今から何を行うのか、それにはどんな意味があるのか。手順を説明し、目的を共有します。例えば筆者の言いたいことをまとめる、という学習を行う。これによって読解スピードが上がり、記述式の問題に解答するための準備ができる。
ぼんやりと課題に取り組んでも、得られる成果はとても少ないものです。先述の通り、不安になることさえあるでしょう。それでは国語への苦手意識は強くなるばかり。わからないから不安になる、遠ざかろうとする。当たり前の心理です。
⒉手本を見せる
言葉で説明したことを、実際にやってみせます。授業であれば、例題を一緒に解くステップです。
説明された段階では言語として外側から与えられた情報が、自分の眼と耳を通じて脳に届き、「考える」練習が始まります。ここではまだ、行動の主体は教える側です。
⒊実践してもらう
いよいよ、行動の主体が教える側から教えられる側に移ります。
実際に生徒に問題を解いていただきます。でも、完全に手を放すわけではありません。疑問点が出たら生徒はいつでも質問できます。受け身で受けた教育に対し、理解できなかったところやあやふやなところを一つ一つ解決しながら授業は進んでいきます。
⒋成長を促す
ここまで来たら、生徒自身が完全に学習の主体になります。教える側はその学習を見守り、褒めるときは思い切り褒めます。もし誤った解釈に進んでいたら、修正のための働きかけをします。
実はこの4段階、私は英語で習いました。ですので4はそのままだと「encourage」。発達や成長を促す、という英単語ですが、語源を掘り下げると『心に力や勇気を与える』という意味になります。
実際の試験に向かうときは生徒一人。その心に、力や勇気を与える。教育のあるべき姿です。
ラポールの形成
教える順序には他にも、信頼関係を築くことをステップ1に置くものもあります。このことを心理学用語では「ラポール」といいます。最近は心理学以外の場面でもよく見かけるようになりましたので、耳にされたことがある方も多いでしょう。
理論は上げればきりがありません。ですが理論ではなく心として、生徒を不安になるような状況に置いて、成績が上がるよう勉強しなさいなどとはとても言えません。生徒、いえお子さんや親御様と信頼関係が築けてこそ、ともに目標に向かって努力できるものです。成果が伴うように努力できるものです。人と人が接するとき、心と心が触れ合います。人を教え、力や勇気を与えることができる心でいられるよう、私も日々自身と向き合っています。幼いころ、親族から言われた言葉です。
「教育は、人の心でするものだ。だからまず、自分の心を鍛えなさい。」
心を鍛えることは、きっと一生続くのです。人を教えるということは、それほど易くない道のりなのです。